令和7–9年度 厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業
先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究
対象疾患:指定難病
当研究班の対象疾患のうち、指定難病になっている疾患の基本情報をまとめました。
タナトフォリック骨異形成症
軟骨無形成症
低ホスファターゼ症
骨形成不全症
大理石骨病
TRPV4異常症
タナトフォリック骨異形成症
指定難病275
概要
著明な四肢短縮、胸郭低形成、呼吸不全を呈する重篤な骨系統疾患。
原因
線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)遺伝子の機能獲得型バリアントに起因する軟骨内骨化の障害。1型ではp.Arg248Cys、p.Ser249Cys、p.Gly370Cys、p.Ser371Cys、p.Tyr373Cysなどのミスセンスバリアントや、終始コドン(Ter807)のアミノ酸への置換が検出されている。2型ではp.Leu650Gluが全例で検出されている。
症状
著明な四肢長管骨短縮(特に近位肢節)、巨大な頭蓋、前頭部突出、鼻根部陥凹、胸郭低形成、呼吸障害など。
画像所見
四肢長管骨短縮、長管骨骨幹端の拡大や杯様変形、大腿骨の受話器様変形、顔面や頭蓋底の低形成、巨大な頭蓋冠と前頭部突出や側頭部膨隆(2型はクローバー葉様)、ベル型胸郭、椎体扁平化、腸骨低形成(方形化)、坐骨切痕短縮など。
治療
根本的な治療は確立していない。周産期死亡が多いが呼吸管理により長期生存可能。
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軟骨無形成症
指定難病276
概要
四肢短縮、著明な低身長を呈する代表的な骨系統疾患。大後頭孔狭窄や脊柱管狭窄などの合併症が問題となる。
原因
線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)遺伝子の機能獲得型バリアントに起因する軟骨内骨化の障害。常染色体顕性遺伝を示すが、新生バリアントによる発症が多い。患者の95%にp.Gly380Argバリアントを認める。遺伝子検査は保険適用。
症状
四肢短縮、低身長、前額部突出や顔面低形成など特徴的顔貌、三尖手、大後頭孔狭窄、脳室拡大、水頭症、睡眠時無呼吸、肘関節伸展制限、中耳炎、咬合不整、脊柱管狭窄、運動発達遅延など。
画像所見
太く短い管状骨、長管骨骨幹端の拡大と杯様変形、大腿骨頸部短縮、大腿骨近位部の帯状透亮像、逆V字型の大腿骨遠位骨端、脛骨より長い腓骨、腰椎椎弓根間距離の狭小化、腸骨低形成、坐骨切痕短縮、水平な臼蓋、シャンパングラス様小骨盤腔、頭蓋底短縮、顔面骨低形成、三尖手など。
治療
根本的な治療は確立していない。乳幼児期に大後頭孔減圧術やシャント手術を要する場合がある。アデノイド・扁桃摘出術や中耳炎に対する耳鼻科的治療もしばしば行われる。本疾患の低身長に対して、我が国では成長ホルモンが保険適用となっているが、2022年にはC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)類縁体ボソリチドが承認された。ほかにもFGFRキナーゼ阻害剤、メクリジン、FGF2アプタマーなどいくつかの薬剤の治験が進行中である。創外固定器を用いた四肢延長術も行われる。脊柱管狭窄症に対しては外科的除圧術(椎弓形成術や固定術)が行われる。
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低ホスファターゼ症
指定難病172
概要
骨石灰化障害や乳歯早期脱落などを認め、血清アルカリホスファターゼ(ALP)値の低下を特徴とする骨系統疾患。
原因
組織非特異型ALPをコードするALPL遺伝子の機能喪失バリアントに起因する。遺伝子検査は保険適用。常染色体潜性遺伝または常染色体顕性遺伝。
症状
発症年齢や重症度には幅があり、周産期重症型、周産期良性型、乳児型、小児型、成人型、歯限局型に分類される。骨低石灰化、骨変形、狭胸郭、呼吸障害、けいれん、発育障害、くる病様骨変化、高カルシウム血症/尿症、頭蓋縫合早期癒合、乳歯早期脱落、歩容異常、骨折、偽骨折、筋力低下、筋肉痛、関節痛、ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(CPPD)など多彩な症状を認める。
検査所見
血清ALP値が年齢基準値に比し低値(他のALP低下をきたす原因の除外が必要)。
ALPの基質であるホスホエタノールアミンの尿中排泄増加。ピリドキサール5’リン酸やピロリン酸も上昇するが、わが国では研究レベルの測定である。
画像所見
周産期〜乳児期にはさまざまな程度の骨石灰化障害、骨幹端舌様低石灰化領域、骨変形、腓骨の骨棘などを認める。小児期にはくる病様骨変化や頭蓋内圧亢進による銅箔状頭蓋などを、成人期には骨折、偽骨折、非定型大腿骨骨折などを認める。
治療
重症例に対してALP酵素補充薬の投与が行われる。軽症例に対する酵素補充の有効性は確立していないが、骨症状など本疾患に基づく症状については改善が期待できる。歯科的管理や合併症に対する外科治療を要する場合もある。重症例におけるけいれんはビタミンB6依存性の可能性が高いため、ピリドキシンの投与を試みる。高カルシウム血症に対してカルシウム制限を行う場合は、酵素補充を併用する。
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骨形成不全症
指定難病274
概要
全身の骨脆弱性による易骨折性や進行性骨変形、結合組織症状を示す骨系統疾患。臨床的には、Sillenceによる1型(非変形型)、2型(周産期致死型)、3型(変形進行型)、4型(中等症型)に、骨間膜石灰化・過形成仮骨を伴う型(5型)を加えて分類される。
原因
多くの症例はI型コラーゲン遺伝子(COL1A1、COL1A2)のバリアントに基づく。そのほかにFKBP10、LEPRE1、CRTAP、PPIB、SERPINH1、SERPINF1、BMP1、IFITM5、SP7、TMEM38B、WNT1などの異常も報告されている。常染色体顕性遺伝のものと常染色体潜性遺伝のものがある。一部の遺伝子の検査は保険適用。
症状
臨床像は多彩で、周産期に致死的経過をとる症例から、明らかな症状がなく成人期に偶然発見される症例まで存在する。易骨折性、骨変形(長管骨、脊椎骨)、成長障害、青色強膜、歯(象牙質)形成不全、難聴、関節皮膚過伸展、心臓弁異常など。
画像所見
長管骨の変形を伴う骨折、変形を伴う細い長管骨、頭蓋骨のウォルム骨(Wormian bone)、椎体圧迫骨折、骨密度低下など。
治療
根本的な治療は確立していない。内科的には骨折頻度の減少を目的としてビスホスホネート製剤が投与される。小児ではパミドロネートの周期的静脈内投与が行われ、保険適用となっている。外科的には、骨折に対して観血的骨整復術、四肢変形に対して骨切り術、長管骨の骨折変形予防を目的とした髄内釘挿入、脊柱変形に対する矯正固定手術などが行われる。
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大理石骨病
指定難病326
概要
破骨細胞の機能不全に基づく骨吸収障害により、びまん性骨硬化を示す骨系統疾患。骨髄機能不全や神経症状を伴う場合がある。遺伝的異質性が高い。
原因
破骨細胞の形成や機能に関連する複数の遺伝子(TCIRG1、CLCN7、OSTM1、TNFSF11 (RANKL)、TNFRSF11A (RANK)、PLEKHM1、CA2、LRP5、IKBKG (NEMO)、FERMT3 (KIND3)、RASGRP2 (CalDAG-GEF1)、SNX10)の異常が報告されている。一部の遺伝子の検査は保険適用。新生児型/乳児型及び中間型は常染色体潜性遺伝、遅発型は常染色体顕性遺伝。
症状
重症である新生児型/乳児型は重度の骨髄機能不全、脳神経症状、低カルシウム血症、成長障害などを呈し、汎血球減少による感染や出血のために幼児期までに死亡する例が多い。中間型は小児期に発症し、骨折、骨髄炎、難聴、低身長、歯の異常などを呈するが、骨髄機能不全は重篤ではない。遅発型では骨髄機能不全は認められず、病的骨折、下顎骨髄炎、顔面神経麻痺などを示す。
画像所見
びまん性骨硬化、頭蓋底や眼窩縁の骨硬化、長管骨骨幹端のErlenmeyerフラスコ状変形、椎体終板の硬化像(サンドイッチ椎体、ラガージャージ椎体)など。
治療
新生児型/乳児型に対しては造血幹細胞移植などが試みられているが、確立した治療法はなく、対症療法が中心となる。著しい骨硬化と骨癒合の遷延のため、骨折は難治性となる。骨髄炎も遷延化することが多い。難聴に対して補聴器が必要となる。
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TRPV4異常症
指定難病341
概要
カルシウムイオン透過性チャンネルTRPV4(transient receptor potential cation channel, subfamily V, member 4)の遺伝子異常によって発症する疾患群の総称。①変容性骨異形成症、②脊椎骨端骨幹端異形成症Maroteaux型、③脊椎骨幹端異形成症Kozlowski型、④短体幹症、⑤短指を伴う家族性指関節症などが含まれる。扁平椎、関節の腫大および拘縮、低身長などが共通の表現型。
原因
TRPV4の機能獲得型バリアントに起因する。遺伝子検査は保険適用。軟骨内骨化の異常が示唆されているが、発症機序や遺伝子型と表現型の関係は不明。
症状
①変容性骨異形成症は、出生時には四肢短縮型低身長を呈するが、成長とともに脊柱後側弯症が増悪して体幹短縮型低身長に変容する。尾骨部に尻尾のような皮膚のヒダを認める。胸郭は狭く、呼吸障害のため致死性となる重症例もみられる。四肢大関節が腫大し可動域制限をきたす。脊椎変形は進行性で難治性である。環軸椎不安定性による脊髄症を生じることがある。
②脊椎骨端骨幹端異形成症Maroteaux型は低身長、手指・足趾の短縮、手指の早発性の変形性関節症、扁平椎などを呈するが、脊柱変形は軽度なことが多い。
③脊椎骨幹端異形成症Kozlowski型は体幹短縮型低身長、樽状の胸郭、脊柱変形、関節拘縮、下肢変形などを呈する。
④短体幹症も体幹短縮型低身長を呈し、扁平椎の程度は強いが四肢の短縮は軽度である。
⑤短指を伴う家族性指関節症では手指の変形性関節症が進行するが、四肢や脊椎には明らかな症状を認めない。
画像所見
変容性骨異形成症では、長管骨が短縮と骨幹端の横径増大のためにダンベル状変形を示し、腸骨翼は横径増大のため鉾槍状となる。脊柱後側弯、扁平椎と終板不整も認め、脊椎骨幹端異形成症Kozlowski型では椎弓の根元が弓根よりも外方に位置するopen staircase appearanceを呈する。手指関節に変形性関節症を認める場合もある。
治療
根本的な治療は確立していない。進行性の下肢および脊柱変形に対して、装具療法や 手術治療が行われる。変容性骨異形成症の重症例では、呼吸管理を要する場合がある。
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